時計の針は、5時35分。
真っ直ぐに、反対の出口に向かう雅の後をついて、今度は友典の指があがった。
「…すみません、少し、動揺しました」
雅の肩に指先を掛けて、距離を詰めると、友典は正直に言った。
「動揺ですか?」
「はい。…てっきり、雅さんは…凱司さん…」
「凱司さん?」
歩きながら、不思議そうに首を傾げ、続きを待つ雅に、訊いても良いものなのか、悩んだ。
「……………」
「…友典さん?」
人の流れに躓きそうになった雅の肩を、少し引き寄せた。
ライブハウスまでの道は、調べてきた。
雅が知っている筈だが、最初迷ってたどり着かなかった、と昨日の雅のクラスメイト、加奈子が言っていたから。
「凱司さん、の……」
「…の?」
なんと訊こう。
凱司さんの女ですよね、も違う気がする。
その痕は誰が付けたんですか、も今更訊きにくい。
とにもかくにも、凱司さんのものであろうに、鷹野一樹とキスをする、というのはどういったことだと訊きたいだけなのに。
友典には、それがひどく難しい事に思えた。

