「いらっしゃい」
慣れたマスターは、鷹野が誰を連れていようと柔らかい笑みで応対する。
店内には、オルゴールのような曲がいつも流れ、カウンターにはガラス瓶に入った茶葉と、コーヒー豆、数種類の蜜とが並び、雅は目を輝かせた。
「鷹野さん、いつもの紅茶、ここで?」
「そう、コーヒーもここ」
自分の職場のドアが閉まった事に胸を撫で下ろし、鷹野はメニューの書かれた小さな黒板を手に取る。
「お腹すいた?」
「はい、ちょっと」
「今日のタルト、洋梨だって」
店に入る前から、様子を見ていた。
向かいの美容院の従業員。
この若い、綺麗な顔立ちの青年は、よく客とコーヒーを飲みに来る。
歳に合わない、甘い笑顔で。
いつも買って帰るコーヒー豆の他に、最近は決まった紅茶も買うようになった。
時折、スイーツも。
にこにこと、愉しそうに。
いつもとは明らかに違う、黒髪の彼の笑顔に。
連れている少女に。
“いつもの紅茶”
“いつものコーヒー”
きっと、私生活で良い人を見つけたのであろうと、マスターの唇に笑みがのぼった。

