あそこが、俺の職場、と鷹野はカフェの前から指差した。
「……炭色…の?」
「そう、中は見えないけどね」
ふぅん、と雅が建物と鷹野とを見比べると同時に、丸い窓のついたドアが、開いた。
白いシャツに黒のベスト、黒いソムリエエプロンにシルバーのネクタイ。
遠目にも、鷹野には誰だかが解るが、雅に解ろう筈もなく、興味深気に見つめている。
不味い、こともないとは思うが、と鷹野は僅かに慌てた。
「雅ちゃん、ここ、入ろう?」
ひとまず、視線を外させたい。
続いて出てきた女性客を、尚も見ようとする雅の肩を軽く掴み、くるりと後ろ向かせた。
「アーモンドココア、マシュマロ浮いてるよ?」
「え」
髪なら、髪を。
ネイルなら、手を。
フェイシャルなら、頬を。
視線の高さを合わせ、そっと触れてから、笑顔を浮かべる。
それからきっちりと、頭を下げる。
頭の中で、決まった動作にかかる時間を計った鷹野は、振り返った。
計算通り、腰からきっちり曲げた姿勢の彼に安心して、鷹野はカフェのドアを、開けた。

