名前は、なんだっけ。
…そうだ“美和さん”だ
歳はいくつだったか。
何が好きだったか。
未婚だったか、既婚だったか。
…確か4つくらい歳上。確か既婚…だったはず
…多分。
まあいい、もう夜の方は営業していないと繰り返すだけだ。
「異動前に言ったのになぁ…。しつこいっていうか…しつこいっていうか、しつこいっていうか…」
なんで今、3回も言ったかな、と軽く項垂れながら、私服に着替えた鷹野は、携帯を開いた。
息吹と揉めた時に液晶の割れた携帯は、新規で買い直した。
必要だと思われる情報だけを移して。
彼女は、当然のように削除した方に分類したはずだ。
メールが、1通。
「…もうちょっと詳しく書けないもんかな…」
送信者、凱司
件名、チェリーパイ
本文、帰りに紅茶買ってこい
紅茶はわかる。
店の向かいがカフェだから。
いつものアールグレイの茶葉を買えばいい。
だが、チェリーパイは買って帰るのか、買ってあるのか解らない。
鷹野は、ふと雅の唇を思い出し、今朝の色はやっぱり可愛かったなあ、と1人で笑った。

