「笠島さんに逆らったら…この界隈で商売できないからなぁ」
特にお前には気を付けとかないと…今度こそ俺が飛ばされる。
と苦笑とも取れる表情で肩をすくめた店長は、で、どうする?と鷹野に問いかけた。
「…髪切りに来たわけじゃないらしいから…居座られても困る。どうしようか」
“会いに来ただけ”。
もう会ったのだから、さっさと帰ればいいのに。
「…次の予約が2時半だから…30分、外…連れ出して置いてくる」
「丁重にな」
「わかってる。ちょっと待っててもらって」
細身のネクタイを片手で緩め、ベストの釦を外しながら、鷹野は、無料奉仕だけは回避しなきゃなあ、と、短く息を吐いた。
金が伴えば甘い顔もできる。
そうして息吹の借金を返してきた。
ただ。
今は、大金を稼ぐ必要がない。
むしろ、完済を避けたいくらいの気持ちだ。
長く、あの家に居たいから。

