うっとり、とは違う。
悶える?萌える?
そんな当てはまる言葉を探しつつ、凱司は何度も3曲目をかけなおした。
雅は同じ箇所の、同じシャウトの始めに息を止めて凱司の服を掴み、声の伸びきった8秒が過ぎると、息を吐いて力を抜く。
「…お前……大丈夫か…?」
つい本気で心配になった凱司は、二度とこの曲はライブではやるまい、と密かに誓った。
「だってだって、凄くないですか!?」
次はいつやりますか?
この曲やりますか?
と、いまだ赤い顔で雅は、あっ、と思い出したように体を離した。
「次の土曜日、土曜日!田鹿くんたちライブするんだって。行ってもいいですか?」
バンドしてんのは“先輩”じゃなかったか? と凱司は思う。
ギタリストの、確か“柳井”。
「…ああ、田鹿ってあの元気なほうか」
行って来ればいい。土曜には息吹もウロウロさせてねぇから。
と凱司は答えると、雅の手にリモコンを持たせ、立ち上がった。
「そろそろ…行かなきゃな。その息吹の店まで。お前は好きなだけイってろ」
あー、なんかすげぇ疲れた、と、凱司はファックス用紙を纏めると、雅を残し、部屋を出た。

