「あー、嘘だ嘘。50円くらいだったかも知んねー」
面倒臭そうに、投げやりに言う凱司が、雅を立たせる。
「それも嘘です…!」
「貰っとけ貰っとけ。そんだけお前に価値を感じたんだろ」
二度と会うこともねぇだろうさ、と、ひとりごち、凱司は綺麗に整えられた雅の髪を崩さないように、ポンポンと叩いた。
「でも、可愛いよ、それ」
くすくすと笑う鷹野にも、ポニーテールを留めるシュシュを直された。
「あの…」
ふと、雅は正面に立つ凱司を見上げ、振り向いて鷹野を見上げた。
「二人に挟まれると…何にも見えない…っていうか…近すぎませんか」
雅は、こんなに家広いのに、何だかハムスターみたい、と。
ひどく嬉しそうに笑った。
「そうだ。鷹野さん、あたし唇可愛く出来てますか?」
「可愛い。すごく可愛い。どうしようってくらい可愛い」
艶やか過ぎないローズレッドは、鷹野の渡したリップグロス。
鷹野の整えた前髪は、真っ直ぐに切り揃えられ、雅の容姿は、夏休み前とはずいぶん変わり、“綺麗”になっていた。

