宇田川は軽く頭を振って、携帯を置いた。
雅は実家に来ているのだ。
少々遅くなった所で、不思議はない。
何も早々に連絡して、心配させるのは……本意では…
「…怒る…でしょうか」
「誰がですか?」
独り言に、返事が返ってきた。
心底驚いたけれども、宇田川はゆっくり振り返った。
「お風呂、行かれなかったんですか?」
「見てきました。でも人がいっぱいだったから…とりあえず何か飲もうと思って」
楽しい、のだろう。
ペットボトルを2本振ると、雅はすぐ隣に座った。
「烏龍茶と、蕎麦茶、どっちがいいですか?」
「どちらでも構いませんよ」
雅は2本を見比べると、烏龍茶を差し出した。
こうして笑っている雅は、やっぱり子供の顔だ、と思う。
愛情なく育った訳ではなさそうだが、少なくとも母の愛は知らないはずだ。
父も、傍には居ない。
肉親の情にもあまり恵まれなかったであろうに、恋も知らない内に強奪された、哀れな娘。
「…凱司さんを」
愛してください、と、呟きかけて、宇田川は。
口をつぐんだ。

