雅の実家とも言える、須藤家は、雅の言う“おばあちゃん”と雅の父親の弟とが住んでいたはずだ。
「お婆ちゃんなら、お友達と一泊旅行に行ったわよ? 今夜帰ってくると思うけど」
「えええっ!?」
鍵の閉まっているドアに戸惑っている雅に、近所の知った人が声を掛けた。
「…今日行くと…昨日お話したのですが…」
難しい顔で髭をひねる宇田川を胡散臭そうに眺めたその人は、雅の袖を引いた。
「ちょっと雅ちゃん、まさか彼氏とか言わないわよね!?」
「ふぇっ!?」
聞き慣れない声が上がる。
宇田川は腕時計を見ながら、何かを思案していて、こちらを見ていなかった事に、息をついた。
「そっ…そんな、はずないじゃないですか!!」
「じゃあ、誰なの?」
食い下がられ、目を泳がせた雅は、Yシャツにネクタイ姿の宇田川をちらりと見た。
眉根を寄せて思案する姿は、とても真面目そうに見える。
「が…学校の先生。家庭訪問」
苦し紛れに、そう言うと。
雅は、曖昧に笑った。

