「ところでさあ凱司」
ふと、思い出したように鷹野が顔を上げた。
「なんだよ」
「雅ちゃんの事だけど」
煙草をくわえた凱司の手が、ぴくりと止まる。
宇田川だけが、髭を1度ひねり、走った緊張感にも動じないように見えた。
「雅、が、どうした」
「…高校生だろ? このまま、ただ家賃相殺していくとすぐに学用品すら買えなくなるんだけど」
でっかいアザラシ買っちゃったし、と、緊張感を打ち消すように鷹野は静かに笑う。
「は……」
「だから、俺が高校生だった時みたいにしてやってよ」
俺がやってもいいんだけどさ、と、鷹野は言うが、凱司は黙って煙を吐き出した。
「なに言ってやがる。あいつには父親がいる。こないだまで住んでた従姉んとこに、あいつの生活費と小遣いくらい振り込まれてんに決まってんだろ」
さらりと馬鹿にするように話す内容に、今度は鷹野の動きが止まった。

