たぶん恋、きっと愛



雅は、チョコレートの箱を抱え、離れたソファーに腰かけた。

疲れが、ふいに襲う。


カサカサと箱を開け、綺麗なチョコレートを眺めれば、ひとつ無くなった空白に、唇にあたる凱司の指を思い出した。



「サインを頂きたいのは、これと、これとこれです」

「ん」

「親父がお前にやらせようと思ってた店舗をそのまま息吹にやらせようと思う」

「ん」



離れたテーブルでの会話は、耳には入るけれど、記憶には刻まれそうもなかった。



「印鑑証明は、このあと私が取ってきます」

「これ、設備そのまま残ってるね、夜逃げ物件?」



雅には解らない、会話。

ちゃんと謝れたかどうか、解らない。

凱司が怖かった訳ではない。

凱司のキスに。
凱司の声に。

あの時は、ただ自分の中のざわめきが怖かっただけだ。


そうなるといい、と体が思った事が、怖かっただけだ。