リビングの手前で待っていた雅を促してドアを開ければ、新しいコーヒーの香りが、した。
テーブルに広げられた書類や冊子の隙間に、カップが4つ置かれている。
鷹野も凱司も、自分が飲みたい時には互いの分も淹れる。
最近ではそこに、ご丁寧に氷で温度を下げた、雅の分も自然に加わっていた。
「お前はそっちでコレでも食ってろ」
目が、合うか合わないかの素っ気なさで、チョコレートの箱を持ち上げた凱司は。
もしかしたらわざと目を合わせなかったのかも知れない。
その不機嫌そうな表情に、雅は一瞬怯んだけれど。
箱を受けとると、そのまま凱司の傍に立って、わざとらしく顔を覗き込んだ。
「……んだよ」
「…ごめん、なさい。 あたし、凱司さんが守ってくれようとしてるの、無視した」
小さい声ながら、真面目に話す雅を、凱司は怪訝そうに無言で見つめていた。

