宇田川は、先にドアを通した雅を少し見やり、鷹野を止めて囁いた。
「艶が」
「……つ、艶?」
「ええ。ほんの30分前とは艶が違います」
きっと凱司さんも気付きますよ、と宇田川は、意味深に眉を上げた。
「あなたの艶も増してます」
「…それ…なんか怖い」
くすくす笑う鷹野は、髭を撫でる宇田川の、全て見ていたかのような笑いに、つられたように笑った。
「一樹さんも…、欲しいものは欲しいと言ったって、凱司さんは投げ出したりしませんよ」
やっぱり諭すように優しく言った宇田川に、鷹野は目元を和らげた。
「うん、わかってるよ」
強烈に欲しいのは確かなんだけどね、と。
鷹野は、男にしたら勿体ないくらいの綺麗な髪を、かきあげた。
「凱司さんは、彼女を悪いようにはしないはずです」
だから、これ以上は凱司に任せろ、と言われている、のかも知れない。
欲しいと言っても叱られないけれど、くれるとは限らないという事だろう。
そう解釈するしかなかった鷹野は。
曖昧に、曖昧に、微かな笑みを、浮かべた。

