「やっ…」
雅の手が、弱々しく鷹野の肩を押し戻す。
「じっとして。暴れたら痛い」
卑怯だ、と、自分でも思う。
傷が痛むのは嘘ではないが、痛み止めは効いている。
脈打つような、強い疼きがあるだけだ。
「まっ…待って、待って!」
「…どうして」
解りやすい戸惑いの色。
目の奥の、緊張。
鷹野は僅かに唇を離し、雅のそんな目を覗き込んだ。
「たっ…試すなんて…事したら鷹野さんが汚れちゃう…から…っ」
「……は?」
汚れる…?
再び、唇を瞼に触れさせた。
「……やっ…だからっ…!!」
「ちょっと、黙って。凱司に見つかる」
囁くように、目尻で、ちゅ、と音を立てれば。
雅は崩れるように、抵抗を止めた。
「以前のこと?…汚くなったって思ってる…の?怖いだけじゃなく?」
唇は耳に滑り、声は雅の脳を痺れさせた。
「だ…って」
「こんなに、可愛いのに?」
目を閉じたまま、静かに息を上げる雅の髪を、右手でそっと避けた。
雅に支えは、とっくにない。
逃げる事は可能であるのに、気が付いているのかいないのか。
雅はそれを、しなかった。

