雅が、不意にしゃくり上げるような声を、上げた。
「違う、違うの……キスは…キスは昨日」
顔を伏せたまま、ふるふると小刻みに頭を横に振ると、雅は抱えていた膝をゆるりとほどく。
キスは昨日、と聞いても、鷹野の中に立つ波は、さほどの大きさでもなかった。
「…キスは…普通、嬉しかったり、嫌だったりします、よね?」
雅は泣いてはいなかった。
眉を下げ、鷹野をすがるように見上げてくるが、涙はない。
「あたし…どっちだったの?」
「…嬉しかったか嫌だったか、解らないの?」
凱司のキスは、そんなに複雑なんだろうか、と鷹野は冗談混じりに思う。
「最初、怖かった。すごく、怖かったの……だけど、そうじゃなくてね…」
変わらずに見上げてくる雅の目に、上気したような、甘やかさが浮かんだ。
聞きたくない。
瞬間的にそう、強烈に思ったのに。
「体が…疼いたのが、怖い」
雅は、はっきりと、でもひどく切な気に、呟いた。

