「さて、と」
部屋のドアは、閉めた。
鍵は、ついていない。
そこ、座って、と指した先のビーズクッションに浅く身を沈めた雅は、一瞬、嬉しそうに目を輝かせた。
「気持ちいでしょ、それ」
「…はい!」
綿とは明らかに違う感触を確かめるように、雅はクッションを撫でた。
鷹野はベッドにゆっくり寝そべり、リモコンを手に取る。
「音楽聴いていい?」
頷いた雅は、鷹野の部屋をぐるりと見回した。
黒いパジャマを最初の日に借りた。
積み重なった箱は、まだ部屋の隅にあり、壁にかかっていたTシャツは、今は色とりどりのストールに場所を奪われている。
小さな音で聴こえ始めた音楽は、雅の知らないもの。
「こういうのもイイでしょ」
やっぱり無言で頷いた雅は、ライブで聴いたものとは全く違う静かな音調に、耳を澄ませた。

