「あっ、大丈夫ですから!」
「…凱司さんが、何か無理をさせましたか?」
宇田川も、見ていた。
凱司の手が、雅の顔の傍を通った瞬間に、はっきりと怯えた色が走ったのを。
「いいえ!いいえ!」
凱司はただ眉をひそめ、こちらを見ようとしない雅が宇田川から手を引き、傍に置いてある絆創膏の缶をひったくるように取ってテーブルに駆け寄るのを、眺めていた。
「雅ちゃん、見せて。絆創膏貸してごらん」
鷹野も、見たはずだ。
凱司の手に、極端な反応を示した雅を。
それを馬鹿にするでもなく、息を止めた凱司をも。
「ああ、大丈夫。深くない」
傷口に小さな破片がないか、光に当てながら見、滲んだ血を押さえ拭いてから。
鷹野は穏やかに、微笑んだ。
「すぐ、治るよ」
依然として凱司を見ない、様子のおかしい雅に何も聞かないつもりか、鷹野は布製の小さな絆創膏を雅の指先に、巻き付けた。

