「…っ」
雅の手から、白いカップが落ち、割れた。
「…あ、ごめ…なさい」
カチャカチャとシンクの中で、破片となったカップを拾う雅が、二度目の小さな悲鳴を飲み込んだ。
「雅ちゃん、切ったの?」
手ぇ出さないで、と鷹野が声を掛け立ち上がりかけるのを、宇田川が手で制した。
「雅さん、私がやりますから、手を洗ってください」
背後から手を伸ばした凱司は、自分の手に瞬時に体を固くした雅を茫然と眺めていた。
「凱司さん?どうかなさいましたか」
宇田川が割り込むように雅の手を取り、指先に糸のように流れた血を洗い流す。
「あ…すみません、ありがとうございます」
どこかぼんやりと答えた雅の目許が赤く染まり、指先をティッシュで押さえられるままに。
その顔を、下から覗き込まれた。
膝をついて雅の指先を丁寧に拭き、新しいティッシュでくるむ宇田川に我に返ったのか、雅は慌てて手を引いた。

