「息吹さんだって、そんな気無いかも知れないし」
大丈夫。
万が一そんな事になっても。
弱味にはしないで。
顔を上げて笑った雅は。
心配しないで。
もし守れなかったら、棄ててくれて構わないから、と繰り返す。
どこまで卑屈なんだ、と、凱司は思う。
「……お前、一回俺に抱かれてみるか?」
鷹野の大事にしている、女。
それでさえなくなれば、息吹の目は向かない。
名実共に、「俺のもの」にしてしまえばいい。
「………え?」
そんな理由で、雅が身を投げ出さないのであれば、いくらでも蹂躙してやる。
はっきりと、明確に。
「……いや、何でもない。…鷹野が襲撃してくる頃だ。さっさと戻れ」
雅の体を押しやり、追い払うように手を振った凱司は、眉間に皺を寄せたまま、仰向けに寝転がった。
「鷹野休ませてやれよ。あいつほんとは安静にしてなきゃならないんだからな」
「は…ぃ」
雅が表情を固くしたまま、ドアを出ていくのを視界の端で見送って。
凱司は、ベッドに残されたアザラシを苛立たし気に、思い切り、蹴り飛ばした。

