凱司の部屋は、やっぱり薄暗かった。
「カーテンって、いつも開けないんですか?」
大きな白いアザラシを抱えたまま、なんの躊躇もなく入ってきた雅に、つい文句を言いたくなる。
この前は、寝ぼけたとは言え、ベッドに引きずり込んだ。
つい昨日は、強引にキスまでしたというのに。
「滅多に開けねぇな」
ベッドの傍に置かれた灰皿に、伸びた灰を落とす。
「…ちっと、ここ座れ」
ベッドを指差せば、小首を傾げて大人しく腰掛けた。
やっぱ座っちまうか、と半ば呆れ、半ば苛つきながら、凱司はその隣に腰掛けた。
シートの沈んだ分だけ、雅の体が傾く。
「息吹の事、だけどな」
「はい」
「怪我が治ったら…都内で働かせようと思ってる」
ゆっくりと煙を吐き出し、後ろに手をつくと。
雅はぬいぐるみを抱き締めたまま、体の向きを変えて凱司と向き合った。
「良かった、のよね? 鷹野さんのお兄さんだもんね?」
「そう、かも知れねぇけどな」
ちゃんと、逃げられるか?
「え?」
残り僅かになった煙草に、やや焦りながら、凱司は雅の目を見つめた。

