たぶん恋、きっと愛



「一樹は…俺の手首掴んで、呆気なくねじ伏せたよ。それからナイフ拾って、思い切りココに刺した」

5年前と同じ、無表情で、と。


包帯だらけの右手をあげて、笑う。


「もう一度振りかざしたので、水を差しました」

黙っていた宇田川が、息をついて静かに言えば。

それきり息吹は黙り込む。




「息吹、お前、働く気は?」

「…どこも…使っちゃくんねーよ」


その返事を、働く気はある、と見なした凱司は、立ち上がった。



「宇田川、熱が引いたら病院に預ける。ここに置いといたんじゃあ、お前の身動きが取れない」

「解りました」

「息吹。お前の弟は、俺の庇護下にある。勝手な手出しはするな」


きつい眼差して見据えると、息吹は目を逸らせたまま、返事をするでもなく、笑った。



可哀想な男だ、と思う。
何もかも、自らの手で壊していく。

家族も、自らの心も体も。


唯一残った自身の弟でさえ。




後ほど伺います、と言う宇田川をひとまず残し、凱司が向かった先は、実家だった。


実家には、凱司の実父がいる。

次代を担う腹違いの弟がいる。

柿の渋で塗られた黒い門柱は、昔からの立派なものだが、家屋自体はさほど古くはなく、それでも重々しい雰囲気を滲ませている。

庭木に鳴く蝉を煩いくらいに感じながら。

凱司は慌ただしく出迎えた男に、片手を上げた。