「朝早くに申し訳ありません」
丁寧に、堅く頭を下げたのは、宇田川の妻を前にした、凱司だった。
結局、手土産は買わなかった。
「いいえ、わざわざ来ていただいて、こちらこそ申し訳ありませんでした」
にこにこと見上げて中に促す女性に、律儀そうな、控え目な笑顔を見せた凱司は、慌てて奥から出てきた宇田川にも、黙礼をした。
「すみません、凱司さん。今朝がたから息吹が発熱いたしまして」
自宅であるのにネクタイを締めたままの宇田川に苦笑すると、うちのも熱出した、と肩を竦めた。
「…ああ、これ。息吹の分の薬。昨日もらった分だから、今日また取りにいかねぇとな」
夜間外来で貰える薬の量は1日分。
「鷹野の負担額と違うからな…迷惑な奴だ」
これから何度か通院するのも、面倒を見なければならないだろう。
保険に加入していない息吹の医療負担は10割。
全額だ。

