「…宇田川、お前、車だな?」
「ええ」
拳を震わせる事もなく、ただ冷たい目を。
飛沫のように散った血に汚れた息吹の顔に向けた。
「こっちは、俺が見る。そいつをどっか放り込んでおけ」
「…では、後程連絡致します。明日の朝にでも、お返事頂ければ」
相変わらずな堅い仕草で頭を下げた宇田川が、まだ出てこない鷹野のいる処置室に、目を向けた。
「大丈夫です。一樹さんも、さほど深く刺さった訳じゃないですから、今夜中に帰れるはずです」
「…刺し、た、のか……」
粘度の高そうな血で唇を濡らした息吹が、悲しげに、愉しげに。
くすくすと、笑う。
「あいつだけ…大事なもんがあるなんて、…ズルいだろ? 金も寄越さねぇ、…女も…寄越さねぇ」
それ以上喋るな、と宇田川が低く囁いたのが聞こえた。
「宇田川…絶対に…逃がすな」
「はい」
くすくすと笑うのは、鷹野と同じ。
違うのは、目に宿る色、だけだ。

