「なあ…跡取り」
足を投げ出して、凱司を見上げた顔は、やっぱり鷹野に似ている。
「俺、もう薬は…やってねぇ、よ? せっかく一樹…が、治療費出してくれたのに…さ、やっぱ、出来ねぇよ」
片方の頬をひきつらせるのは、息吹の癖なのだろう。
しれっと言った息吹の脛を、リングブーツの硬いヘリで軽く蹴り飛ばした。
「だったらなんで、そうなる」
包帯に巻かれた右手に視線をやり、凱司は目を眇めた。
「一樹にな、金…貸してくれって…言ったんだ」
片頬を上げたまま、息吹は左手で長く伸びた髪に指を突っ込み、照れたような、悲しいような、奇妙な笑顔を浮かべた。
「あいつに、貸すような余裕が無いことくらい、知ってんだろが」
低く抑えた凱司の声は、怒りを含んではいるが、ひどく冷静なものだった。
「ああ…わかってるさ。俺が…お前んとこから借りた金が…膨れ上がってん…だろ?」
あっけらかんと笑う息吹に、宇田川は繋がった紐を思い切り引いた。
喉を詰まらせ、ぐ、と体勢を崩した息吹が、噎せながら笑う。
「あー…俺、この先、犬飼うことに…なっても…絶対首輪つけねぇと思うわ」
あまりに飄々とした態度に、凱司は不機嫌もあらわに、息吹の髪を鷲掴んで引き立てた。
バランスを崩しながらも立ち上らせられた息吹の、痛そうに歪んだ目を睨み付ける。
「で?鷹野に何した?」
「何も、…してねぇよ」
ただ…
金がねぇなら、あの可愛い子を売ったらどうだ…って言っただけ…だ。

