「エアコン、つけっぱなしにしとけば良かったね」
すっかり日が落ち、昼間の太陽の余熱か、くすんだような夜空に、月が見え隠れしている。
上空は風が強いのか、月明かりに照らされた薄い雲は、形を変えながら流れていく。
「…なんか、寂しいですねぇ」
昼間誰も居なかったせいで、生暖かい、というには少し温度の高い部屋に、二人は帰宅した。
空っぽの灰皿。
しない、コーヒーの香り。
「凱司さんの匂いが、あんまりしない…」
「…匂い…?」
苦笑する鷹野は、それでも雅の言うことが、何となく理解できた。
いつも一緒にいるのだ、いない日は、寂しいとまでは行かなくても、物足りない気分になる。
「アイスティー淹れとくから、先にシャワーしといで」
「あ、いえ…鷹野さん先にどうぞ。運転した人が、先」
運転って、疲れるんだって聞いたから。と。
雅は鷹野の手にした紅茶葉の入った缶を、そっと取り上げた。

