雅は。
凱司へのお土産に、真っ白いアザラシのぬいぐるみを買った。
大満足なのか、嬉しそうに抱えて微笑む雅の体の、半分はありそうな、大きなもの。
「凱司帰って来る前に、ベッドに入れとこうね」
「うん」
今日は、電車ではなく、鷹野の運転する車で来た。
駐車場までは、多少距離があり、鷹野は悪戯っぽく笑いながら、ちらりと雅の足元を見た。
白い、踵の低いサンダルをはいた雅の素足。
どうにも様子がおかしい。
変わらずに雅は楽しそうだけれど、はぐれそうな程に歩き回っていたのが、鷹野の傍を離れなくなっていた。
言えば良いのになぁ、と鷹野は内心、苦笑する。
疲れるくらい、水族館内を歩き回った。
海岸の傍にある水族館を出た後は、砂浜を歩いた。
多分、靴擦れにでもなったのだろう。
「雅ちゃん、あのコンビニまでゆっくり行こうか」
「はい」
「アザラシ、貸して。転びそうだ」
くすくす笑いながら、雅の腕から、大きなぬいぐるみを取り上げた。
湿気を含んだ海風に、雅の髪と、鷹野の髪が絡まりそうに舞い上がり、白いアザラシの上に散る。
「風、強いですね」
乱れた髪を指先で掬いあげて、空を見上げた雅の。
髪の絡んだ指が、ひどく綺麗に見えた。
太陽の残り火のような色が、建物の隙間から、僅かに。
だがくっきりと見えていて。
空全体が澄んだ群青に、変わる。
「空、綺麗な色」
嬉しそうな雅が鷹野を見上げた、その視線に。
鷹野は少し慌てたように、そうだね、と空を見上げた。

