夏休み中の水族館は、雅くらいの年恰好のグループも多く、混み合っていた。
時折、すれ違いざまに凝視されているのを、鷹野は知っていたし、それが自分の容姿にあることも、知っていた。
鷹野の髪は艶やかで。
容姿は、決して地味ではない。
どうすれば、どう見えるかを、知っていた。
いつも凱司と並ぶために小さく見えがちな身長も。
男のステータスは一応満たしている。
好みもあるだろうけれど。
顔立ちもスタイルも、悪くはなく、明らかに、夜の匂い。
そんな男に引っかかった、女の子。
…に、見えてしまう事に関しては無頓着なのか、雅はいつでも自分を卑下したまま、気を揉む。
自分の彼氏に見えてしまったら申し訳ない、の一点張りだ。
「凱司に…ここで何買うの…」
水族館らしく、青と水色と白で埋め尽くされた、ファンシーショップさながらのコーナーには、凱司に合うような物があるとは思えずに、鷹野は苦笑した。
「マンボウの…ストラップ……とか…」
「マンボウ……」
繋がれた手は、もう温かくなっている。
手を預けているだけではなく、緩く握り返されている事に鷹野は。
もう慣れたのか、と、ひとり笑っていた。
「あ、蛇」
細長いだけの、到底可愛いとは言い難いぬいぐるみを左手で少し持ち上げて。
雅は何故だか嬉しそうに、鷹野を見上げた。
「なんで水族館に蛇?」
「…ウミヘビ?」
「ああ、ウミヘビかぁ」
「ウミヘビじゃ、お揃いじゃないですねぇ…」
他愛もない会話に、これでもかと存在のちらつく凱司に。
ほんの僅かに、嫉妬のような。
そんな感覚を、覚えた。

