この時期だけは、きっちりと帰省していた凱司が、今年も例年通りに出かけていった。
非常に、不機嫌な面持ちで。
原因は、今、一緒に水族館に来ている少女。
「雅ちゃん、ペンギンあっちだと思う」
さっきから園内地図を、右から見たり左から見たり逆さにしたりしている、空色のワンピースを着た、少女のせい。
「え、あっち、ですか?」
「…ついこないだ、来たんじゃないの?」
雅ちゃんは方向音痴ですね、とわざとらしく馬鹿にすれば。
雅はカサカサと、地図を正しく持ち直して見つめ、首を傾げた。
「こないだは…ペンギンいなかった…もん」
「ええぇ…?」
「い…いなかったですもん」
折り目の通りに地図をたたんで、雅は頬を膨らまし、意地を張った。
「ほんとに?」
可笑しくて堪らない。
顔を覗き込むように屈めば、雅はすっかり眉を下げ、上目遣いに苦笑した。
「…きっと、いましたよね」
「うん、絶対いたと思うなぁ」
「もう鷹野さんが地図持って下さい!」
頬を赤くした雅が、畳んだ地図を、押し付けた。
空色の膝丈ワンピースの裾から覗く、白い大振りなレースを。
ひらひらと、ふわふわと揺らしながら、鷹野の傍を離れない、雅の、せい。

