「好き……って、よく、わからない」


わかるんだけど、わからない気がするの、と雅は。

凱司の左腕の蛇を見つめたままで、呟いた。



「凱司さんの…そばに居たいと思ったり…鷹野さんのキスにドキドキしたりは…違う、よね?」


「キス、だと?」


じろりと睨んだ凱司に。
あわてて手を振り、おでこ!と叫んだ雅の頬は、みるみる紅潮した。


「あの…違うの…鷹野さんは別にあたしを好きとかじゃ……」

言いかけて気が付いたのか、恐る恐る、鷹野を見上げた。


「好きだって今さっき言ったばっかりなのに」

くすくすと笑う鷹野が、凱司をチラリと見、二度も雅ちゃんの唇強奪したくせに、なに目くじらたててんのさ、と更に笑った。



「凱司さんと…キス…」


がたん、と突然立ち上がった雅は、すっかり上気した目で凱司を見つめると、一気に真っ青になった。



「失礼な奴だな…鷹野には赤くなっといて、俺には青くなんのか」

「だってあたし……」


それまで、雅にとってのキスとは、その後に続く行為への、合図でしかなかった。


いつもなら驚きもしないのに、あの時は確かに。

ひどく、狼狽えた。



「みんなと一緒なんだと思ったら……悲しかっ……」


どうしよう、と雅は目に涙を溜めた。


…どうしよう。

どうしよう、ごめんなさい。


「あたし………やだ……ほんとどうしよう…そんなの、ない」

ごめんなさい、忘れてください!


気のせいです!

あたし、駄目なんです!

好きになったら、駄目なんです!