たぶん恋、きっと愛




柳井は、後悔していた。

帰り際、水族館の入館料を払うと言って聞かなかった雅に、自分を好いてくれる可能性はないのか、訊いた。

女々しい気はしたけれど、諦める気には、ならなかった。


雅が、あの背の高い刺青に夢中なのは解った。
解ったけれど、そんな理由では、自分の入り込む隙がないなんて言えない、と思った、から。


歳上の男の包容力に、勘違いをしているだけだ。

毎日、学校で会えるのは自分。

諦めなきゃならない道理なんか、ない。


そんな最初の意気込みは、あっさりと。
凱司によって削がれてしまった感じがある中。


意地も虚勢も張れないままに、一緒に食事をする羽目になるなんて。


特に、柳井の恋について触れるような会話はなくて。

主に今日の水族館の話を、加奈子と田鹿が代わるがわる喋り、

雅は。
居心地悪そうに、俯いていた。



絶対、嫌われた。二回も告白するんじゃなかった、と。

柳井が落ち込むほどに、雅は柳井を、見ない。

ふと、話が途切れた僅かな沈黙に、雅はようやく顔を上げた。




「…ごめんなさい」

こんな、時間取らせちゃって。
加奈子も、田鹿くんも、…先輩も。


「あたしが、はっきりしなかったから、よね」



雅の表情は、固い。

なんて言ったらいいのか解らないけど、と前置きしてから、雅は柳井に向き直った。



「あたし…恋愛のこと、よく……解らない。恋、したことないんです」

好き、って、よく……解らないん…です。