たぶん恋、きっと愛




「…え…?」


意表を突かれた昌也の目の前で、完全に我を失った雅が。

自分を怯えきった目で見つめて、ぼろぼろと涙を溢していた。


訳が分からずに一歩近づこうとしたところへ、自分を抱きしめるように凱司が立ちはだかる。


「…え……なに…」

「……わかんねぇ」

わかんねぇが、駄目だ、と、そう言う凱司が、昌也の頭を抑えた。



「少し、待っててくれ」

苦渋に満ちた、凱司の声と。
雅の小刻みな、呼吸。

鷹野の囁くような、大丈夫だ、という声に。

昌也は元の椅子にへたりこむように、座った。



「……よりによって、ちょっとひとりにした時に……」

1日傍に置いておいたのに、と吐き出すような凱司の声を、昌也は。
茫然としたまま聞いていた。




「鷹野、寄越せ」


何の躊躇いもなく雅を抱き上げた凱司に、昌也はもちろん、鷹野も、目を見張った。



「……やめ…てっ…」


抱き上げられた雅は、それきり息を止めたかのように、黙ってしまった。

気を失った訳ではなさそうで、ひたすらに唇を噛み、目を閉じ、耳を塞いで嗚咽する。



「鷹野、ウォッカ」


外の全てを遮るように。
耳を塞ぎ小さく縮こまる雅を抱えたままソファに座り、硬直したような体を、膝に乗せた。



鷹野が渡した瓶の口を、雅の唇にあてがうけれど。

噛み締められた唇は、開かなかった。