「雅ちゃん、ほんとになにしてんの。早くおいで」
廊下を覗けば、まだ思案顔の雅が、立ち尽くしていた。
声をかけられて、はっと顔を上げ、小走りに戻って来る雅は、よくなついた小動物を思わせた。
「…だって、ズルいだろ?」
ね? と悪戯っぽくウインクした鷹野は、間髪入れずに。
ほんとに雅ちゃんは料理うまいなあ、と畳み掛けた。
「……あ、ありがとう…」
何だかよく解らなくなったのか、雅は怪訝な表情のまま、つられて微笑んだ。
「お母さんに教わった?」
「ううん、お婆ちゃんに教わりました」
「そう、ケーキ作りも?」
「うん、ケーキも、パンも、漬物も、一通りお婆ちゃんに」
あれこれ皿を取り出しながら、にこやかに会話を続ける鷹野も。
黙ってテーブルを片付けながら聞いている凱司も昌也も。
母はいないのか?と。
訊いていいものかどうか、図りかねていた。
雅の作った食事と、雅の作ったブルーベリーのパイは、同時に並べられて。
鷹野の持ち帰った紅茶には、氷が浮いた。
「グレープフルーツの香り、ほんとにしますね」
凱司と鷹野とに挟まれて座る雅は、やたら小さく見える。
時折、動きを止めて何かを窺うかのように窓を見るけれど、外は、見えないはずだ。
見えないように凱司が。
わざわざぴったりと、カーテンを閉めたのだから。

