骨が鳴るのを、待つ。私は、この思いもよらなかった言葉を、口の中で反芻した。どういうことなのだろう。青年は、じっと考え込んだ私を見て、首を小刻みに振りながらつぶやいた。


「ご理解いただけなくてもいいのです。僕は、鳴る骨を探さねばならないのです。失礼します」


「まあまあ。誤解しないでください。私はなにも、あなたがおかしなことをおっしゃっているなんて思っていない。確かに、謎めいたお答えですが、私はあなたをお手伝いしたいのですよ。これは本当です。いやすっかり……」


あなたに魅了されてしまいました、と口をすべらせるところであった。私はばつが悪くなって、すっかりまごついたが、骨から連想したギリシャ神話の逸話を舌に乗せて、その場を取り繕おうとした。


「ギリシャ神話では、大洪水から逃れた男女が、石を大地の骨とみなして自分たちの後ろに投げたところ、その石から人間が生まれたそうです。ですから、あなたがさっきから石を拾って、鳴る骨を探しているというのもおかしくはない。石が骨だとして、そこから人間が生まれるなら、その石の一つくらい鳴ったっていいわけですからね」


そう語りながら、私は当初から青年の表情に見られた固い警戒心が少し溶けてきたのを見た。

「そうですか。そんな話がありますか」


さっきまで口角の下がっていた彼の口元に、ぱっと喜びの笑みが浮かんだ。


「僕の行動は間違っていなかったかもしれないですね。実は、骨が鳴る、というのは人づてに聞いた話で、あやふやなところもあったものですから、本当に見つかるか不安だったのです。しかし、あなたのお話で自信が持てました。ありがとうございます」


彼が興奮した体で私の手を握り、丁寧にお辞儀をするものだから、気まずさをごまかすためにギリシャ神話などを持ち出した私は、またきまりの悪い思いをすることになった。しかし、不安がやわらいだ様子の彼が、歳相応の子供っぽさを残すまなざしを冬の海に投げかけているのを見たとき、私は頭痛がゆるゆると引いていくのを感じた。そして、それは青年の冷えきった手の中からにじみ出たぬくもりのおかげだと断定した。