田島の葬式は、ごくささやかに行われた。

田島の母親はもう他界しており、白髪をたくわえ、だいぶ老け込んだ顔をした父親が、喪主を務めていた。私が挨拶すると、先方も丁寧にお辞儀をして、親しく交際したことへの礼を述べてくれた。そこで伝え聞いたところでは、田島を刺したのは、ユリの義父であったらしい。田島は、あの義父から尾行されたり、監視されたりしていることに感づいていたという。あの事件の前日、田島は父親に電話で、それとなくそんな話を匂わせていた。それから彼の父は、骨上げに誘ってくれた。私は思わず尋ねていた。




「お骨は、鳴るでしょうか」
田島の父親は、たるんだ涙嚢に手を当てた。それは、困惑しているときのしぐさのようであった。私は、この話が誰にも伝わらないことを思い出し、骨上げに行くことは丁重に辞退した。鳴らない骨は、田島の骨ではない。私はそう信じていた。


私は、自分の頭痛のせいで、田島の警戒心を緩ませたこと、そしてなにより、なぜ危険に気づいて対処してあげられなかったのか、ということを悔やんでいた。その罪悪感を背負う苦しみを味わう中で、田島が本気になっていたあの信仰―鳴る骨のことを思い出していた。

田島の気持ちが、初めて本当に分かった。藁をもすがる思いで、さいなまれる罪の意識から逃れたい、赦されたい、田島に会いたい―悲痛な叫びは、声にならなかった。ユリの義父に命を奪われ、田島は償いをしたのだろうか。命と引き換えでなくては、罪は赦されないのだろうか。自問する日々が続いた。

不眠は、よりひどくなり、頭痛で寝込むことも多くなった。私は布団の中で七転八倒した。枕に口を押し当てて、声が漏れないように叫んだ。

いったん他人に心を開こうと芽吹いた思いは、田島の急逝によってあえなくしぼんだ。私は、また一人ぼっちになった。そのことが、今まで以上に堪えた。