夜、布団に入ってまどろんでいると、どこからともなく田島の声が聞こえてきた。


私は返事をしようと口を開けかけたが、唇が麻痺したように動かない。


こちらに迫ってくる田島の声は悲鳴のようだった。誰かに追いかけられているようにも思えた。


そのとき、自分が鉄パイプをしっかりと握っているのに気づいた私は、田島を追いかける赦し難いものを見極めようとした。


田島が私に助けを求めて走ってきた。彼の苦しそうな息づかいが、冷え冷えとした空気を伝わってくる。私は両手を振り上げた。


と、田島を追いかけるものの正体をはっきりと見て愕然とした。それは、田島が描いていた、血涙を流しながら、ナイフで己の胸を突く女性だった。血はいまやどくどくと流れ落ち、彼女は真っ赤なコートをまとっているように見えた。


私はたまらず田島の手をとって一緒に逃げた。途中で何かにつまずいた。まだ新しい墓石だった。そこから、無数の手が、私たちの足をつかもうと伸びてくる。恐怖の叫びが私の喉から、薄い布を引き裂くような響きで放たれた。


田島がつかまれた。声にならない、喉から漏れるぜいぜいという荒い息だけを残して、彼は地の底に消えた。


「赦してくれ!」


私は自分が発した大声をはっきりと耳にして、目を覚ました。全ては恐ろしい夢だった。現実には、いつもと変わらぬ自分一人の寝床の中にいるのだと確信するまでに、長い時間がかかった。


それほど生々しい悪夢だった。


大きく深呼吸しながら、自分の言葉を思い返した。私の脳はかっかしていた。本当にここに鉄パイプがあったなら、溶鉱炉のように燃え立つ自分の脳で溶かすことができたかもしれなかった。


私は確かに叫んだ。赦してくれ、と。誰に?田島を地底に引きずり込んだ無数の手にか?それとも救えなかった田島にか?田島を、そして私を追った女性にか?


私の頭は割れんばかりに傷んだ。そして、這い起きて灯りをつけ、彼から購入したスケッチを取り出して眺め入った。


私は、自分が既に息絶えて、田島と共に墓の中でうずくまっている気がした。


私は、田島の絵を抱きしめて、また横になった。頭痛を治そうとは思わなかった。しかし田島の絵だけは、胸から剥がされようとするくらいなら、絵と一体になりたいと願っていた。
頭の中を、底知れぬ闇を吐き出す蛇がうねうねと這い回っていた。