「すみません、こんな話をして。さ、絵を見てください」


私が考え込んでいるうちに、田島は立ち上がり、押入れの中にあるあまり大きくないカンバスや、スケッチブックにさらさらと描かれた素描を出してみせた。


作品たちを見るうちに、私の心は暗鬱たる闇に包まれていった。田島は、自らの心の闇を描き続けているのだろう。深い黒の中からうごめく無数の手、血の涙を流しながら自らの胸をナイフでえぐる、貞女ルクレツィアのような表情の固い乙女、赤子を抱く母親のデッサンが、紫の絵の具を用いて激しい筆致で塗りつぶされた様、それらは、確かに田島の才能の片鱗を見せていたが、市場では買い手がつかないことも納得できた。つまり、「罪」という闇を具現化した絵を見て、その芸術性は評価しつつも、自分の手元に置こうという人物はなかなか現れないであろうということなのである。


それでも、田島は描き続けている。おそらく描く時間を少しでも確保するために、定職に就かず、バイトをしながら、爪に火を灯すに近いような生活をして、なお描き続けている。もしかするとそれは、田島なりの償いであり贖罪なのかもしれなかった。