ある政治家のモットーは公平に安心できる暮らしを皆で――である


その一、
共存共栄であるように

その二、
皆に行き渡るように

その三、
駆け引きを忘れない

その四、
安全策を練っておくこと

その五、
退路を確保しておくこと

その六、
あからさまな嘘をつかないこと(大事にならないように上手な嘘をつくこと)

その七、
物分かりの良いふりをすること

その八、
すり替えを上手く行うこと

その九、
常に曖昧であること

その十、
皆の流れに合わせて素早い変わり身をすること



これは――
とある旧家の政治(まさはる)家の話である。

政治家の当主・公平は
公平という名前の意味なんて意にも介さず

政治家がもっと繁栄することを念頭に置いたふりで、
実は当主である公平が安心して暮らせるように……

己の力を保つ為に財産が均等に分配されていることを印象づける駆け引きを忘れず

その上、自身の安全を常に考え、逃げ道を用意することを怠らず

糾弾を避けるためにあからさまな嘘は避け、他者の嘘は激しく責め

物分かりの良いふりをして問題を上手くすり替え

それを可能にするために曖昧であり

流れを見て勢いのあるものに乗るために
舌の根も乾かぬ素早さで変わり身をし
必死に笑顔で近付き乗り換える

都合が悪くなれば同族すら切り捨て
常に己が第一頭であることに全精力を注ぐ。



「皆の為に」の上に己の為が有り

「弱者の為に」を論じながら
喚き散らせる者の不誠実に耳を貸し
救うべき本当の弱者を見ることも無く
物言えぬ本当の弱者の涙を知ることもない。

世の幸福を熱く語りながら
世の不幸に興味はない。

ましてや今が全てであって
未来なんて不確かなものには微塵も興味はない。

誰よりも変えられる立場に有りながら
誰よりも変えようとはしていない

一国の主としてよりも
一人の人として今の案パイを選び

腰を折り骨を折ることを忘れ
骨は折らずに腰だけを折る。




あれだけ希望を謳い
勇ましく振り上げた拳を
いつの間にか降ろして……









公平に
安心できる暮らしを
皆で献上しろ
とでも言おうか……





そう……これは
政治家(まさはるけ)の話――