「すごく面白い話があるんだよっ!」


今度は手を合わせて左右に振りながら言う。


またか……。


江夏は、何かあるたびに私のところへきて話す。


今回も例外ではない。


「どうせ下らない話だろうけど……。
聞いてやらないこともない」


その話で暇をつぶす私もどうかとおもうがな。


「さっき、資料を置きに理科室に行ったの!
そしたらね……。


理科室にオルガンがあったんだよ!
ねぇ、普通音楽室じゃない?
どう!?
面白いでしょ!?」


「ほんとくだらねぇな」


聞こうと思った私がバカだった。


しかし……。


「……今から理科室行こうか」


気にならないこともない。


「れっつごーだよ!」


右手を挙げて言う。


私はそれを無視して教室を出た。


「ふぇ~。
待ってー!」


後ろからついてくる奴なんぞ知らん。


歩くのが遅い江夏を、私はわざと小走りで引き離していく。


必死についてこようとする江夏が面白い。


「理科室こっちだよ!」


後ろから江夏が私のことを呼んだ。


いつのまにか理科室を通り過ぎていたらしい。


なんとなくいらつくから江夏の頭をパシン。


「なんでたたくの!」


「なんとなく」


理科室のドアを開けると、独特の薬品の匂いがした。