何か言いたげな黒田の方を向いてみると、さりげない笑顔で智香子の方を見ていた。


「もし、私のお父さんが生きていたら黒田さんみたいに話をしてくれたのかな。」



「はぁ!親父さんですか・・・。ふぅ。俺もそういう年なんだよなぁ。
いきなり現実に引き戻されたぜ~。はははは。」



「あ、黒田さんはお年より若いですよ・・・たぶん。
あ、フォローになってませんか。

あの・・・和音さんはどこですか?」



智香子は話をはぐらかすつもりで和音の居場所を尋ねると、黒田はすぐ下の階の部屋へと案内した。


静まりかえった部屋で何やら細かい作業をしているらしく、空気からして張りつめている。


(どうしよう・・・すごく真剣に絵を描いてる。
声かけられないよ・・・。)


智香子が困っていると、黒田が笑って声をかける。


「何か急ぎの用があるなら、俺が送るけど・・・とくにないなら仕事を手伝ってくれないかな?」


「お仕事ですか?」


「うん、今度やる和音の個展の準備なんだけどね、お得意様のところとかデザインを提供している企業宛てに案内状を用意してるんだ。」


「あ、手伝います!わぁーーー。たくさんお知らせするんですねぇ。

あれ?如月って・・・。」



「和音のやめた会社ってのは知ってるよね。

最近、経営が危ないっていわれてて和音を呼び戻したがっているようだから俺は出さなくてもいいんじゃないかなって思うんだけど、ほとんどの社員たちには恩があるからとか言ってさぁ・・・。」



「和音さんらしいですね。」


「僕がどうしたって?話が終わってたのなら声かけてくれればよかったのに。」


「和音さん・・・!
あんまり集中して描いてるみたいだったから、おじゃましちゃいけないと思って。
個展の準備もかなりあるみたいだし、私いっぱい手伝いますよ。」



智香子は和音の新しい仕事の手伝いができるのがうれしくて、目をキラキラさせて答えた。


「智香・・・。

じゃ、アルバイトに当分雇うことにしようかな。」


「えっ?」



「あいてる時間を利用する程度でいいんだ。
黒田さんの画廊スタッフも自分たちの仕事があるから、個人的には頼みにくいなって思ってたところでね。

夜だったらいっしょに帰ることもできるし、外食に出ることもできるだろ?
だめかな?」



「ダメだなんて・・・。
私は手伝わせてほしいです。

和音さんの絵をたくさんの人に見てもらえるなら、私・・・がんばります!」