菜の花の君へ


平永和紗は和音が退職した後、すぐ自分も退職して、表向きは経営コンサルタントとして活動しながら、和音から如月織物関連の調査を頼まれていた。


「某織物会社はあと半年もたないね。
せっかくおまえが、親の不始末をあまりあるくらいフォローしたというのに、バカ重役どもと我がまま関連会社が好き放題やってたおかげで、火の車だ。

聞こえだけのデザイナーの田所まで引っ張り出されて、娘の千夏も秘書としての冷静さを欠いているような状態だ。」



「それで新社長様は何をやってるんだ?
僕を追い出して、うれしそうだったと記憶してるんだが。」



「ああ、期待を裏切られてショックだったみたいだな。
しかもおまえが毎年発表していた新商品が今年は出せないわけだから、取引先も大騒ぎだ。

ほんとに和音様はいつのまにそこまで、なくてはならない人になってしまっていたのかね。」



「有能すぎる秘書のおかげで、僕の落書きに近いおえかきまで商品化された上、営業部が死にもの狂いで販売促進してたようだがね。

そう思うと、末端の社員たちを何とか助けてあげたいんだけどね。」



「そこまで気にして助けようとすれば、和音の自由は完全になくなるけどいいのかい?
自由のために、飛び出したんだろう?」



「そうだけど・・・。次の就職先くらい世話をしてあげたいなって思うわけさ。
僕は鬼じゃないからね。

それに、個展がうまくいって店でもできるようになったら、デザイナー部門だけでも僕が拾ってあげたいとも思ってるけどね。」



「そういうことはなるべくやめた方がいい。
全員の心意が理解できてるわけじゃないし、社員はおまえを逆恨みこそすれ、拾っても感謝しない。

おまえはもうそういう仕打ちを皆にやらかしたんだ!」



「そうだね・・・。まだ、何も終わっちゃいないんだった。」



和音はいずれ父の後を継ぐことは覚悟していたが、父親の急死直後からたくさんの社員の生活すべてを背負い、ひたすらがむしゃらに走リ続けてきて結局は身の危険まで招くことになったことで心を痛めていた。