出ようとした智香子を制して和音が玄関のドアをあけると、ハイヒールに高級ブランドのスーツをまとった知的美人が立っていた。



「あれ・・・田所くん・・・。どうしてここに?」



「社長、いえ、元社長の中務さん。
大事な用件があってまいりました。」



「何かあったの?」



「早急に、私と結婚していただいて、子会社と関連企業をまとめあげてほしいのです!

できましたらこれからでも婚姻届を出しにいってもらえませんでしょうか。」



「な・・・っ。何を言ってるのかわかってるのかい?
それに僕は退職してしまった身なんだよ。

このとおり、無名の画家だよ。」



「いいえ。無名どころか、多数のデザイン部門のトップの心をつかみきっている最高のデザイナーで、今、我が社を立ち直らせることのできる唯一の人物ですわ。」



(この人、会社の人?たぶん秘書だった人よね。
いきなり、自分と結婚してなんてすごすぎる・・・・!)

突然、やってきたこの自信に満ちた女に智香子は寒気を感じてしまうのだった。