菜の花の君へ


和音の屋敷に作ったキッチンでも同じことはやっていたはずなのに、マンションのダイニングだと和之がそこに笑って座っているように智香子には思えた。


「いくら兄さんと顔が似てるからって、そううっとりと眺められてると食べづらいんだけど・・・。」



「えっ!あれ、そんなつもりないんですけど・・・あはははは。」



「まぁここを購入したのは僕だし、仕方のないことだけど・・・。
で、明日からのことなんだけど、古くからの知り合いの画廊へ通うから。」



「画廊ですか。描いたものを置いてもらうんですか・・・?」



「それもあるけど、僕の給料をもらいにいってくる。
給料っていうか売上げかな。預かってもらってたんだ。」



「あの、学費の心配はないし、私もバイトがんばりますから無理しないでください。」



「えっ・・・クッ、ククク。ははっ。僕も見くびられたものだね。
智香はバイトより留年しないように勉強しなさい。」



「で、でも・・・さっき帰ってきたばかりで、明日って。
お金がいるってことなんじゃ・・・?」



「ああ、いるね。個展をひらくとなるとね。
預かってもらってる給料は3千万くらいはあると思うんだが・・・。」