翌朝、平永和紗が智香子の部屋のドアをノックした。



「はい。あっ・・・平永さん、傷はかなり痛みますか?」


「いえ、おかげさまでずいぶん楽になったよ。
君が先に朝食をすませてたって聞いたので、挨拶だけでもと思って。

社長、いや・・・和音に決心させてくれてありがとう。」



「えっ?な、なんのことですか?」



「またまた・・・。君が和音に危ないから会社やめるようにって言ったんだろう?
やめてくれないと、家出して独立するから和之の遺産よこせとか言って。」



「あ、あはは、はは。独立するとは言いましたけど、そんなふうには言ってませんよ。」



「まぁいいや。とにかく彼の身に何かあった方がこれから先が大変だし、結果的にいったん悪魔の城から出る決心をつけてくれさえすれば、何とかなる。

俺も思い残すことなく退社することができるしね。

で・・・この先なんだけど、じつは俺ある中堅企業の秘書課にもう内定してるんだ。

だから、いきなりここを出て独立っていうのも大変だろうし、うちに来ない?
わりと高級マンションだよ。」



「そ、そんなこと!マジで言ってるんですか?」



「うん。和之を訪ねていって君と会ってからいいなって思ってたから。
生活力あるから不自由させないよ。」