菜の花の君へ

湯河は驚いた顔をして智香子を見た。


「噂話は本当だったんだ。
施設に逃がした息子か・・・。そして囚われの息子。」



「先輩、何だかそれって中務の家が悪魔の城みたいに聞こえちゃうんですけど。」



「悪魔の城だよ。
中務和音の母親は夫のDVと商売道具にされて変貌していく息子を守れない苦悩とで自殺したんだ。」



「ええっ!!」



「そして母親が亡くなって2年後だったか、父親は交通事故であっけなく逝ってしまうという哀れな結末さ。

和音はやっと解放されたはずだったけど、父親が死んだあとに背負うものが今度は大きすぎて、ビジネス界では氷のプリンスとまで言われている。

べつに父親譲りのあくどい商売をしているわけでもなく、会社そのものは普通なんだが、対人関係がとても冷たいらしくて、食事会や飲み会はもちろんのこと接待なんかも社員まですべて禁止にしてしまい、取締役会でそのあたりをたたかれ始めて、最近は社長解任説も浮上している。」



「解任って・・・和音さんがいたからみんな変わらず働けたんじゃないんですか?」



「そうだね。これは俺の推測だけど・・・彼の本質は優しすぎる昔のままなんだと思うんだ。
だから、父親が積み上げてしまった汚い人間関係を必死に拒絶しているんじゃないかと。」