和音の家で食事をしたのは1週間ほどになるが、智香子に対していたずらっこのような笑顔を見せたのは初めてのことだった。



「そ、そんなこと。私がどんな顔をしていたってこの場では和音さんにはご迷惑をかけていないはずです。

それに、私は朝ごはんはずっと和之さんと交代で作ってすませて出かけていたんですし、こういうの慣れてないんです。

作ったものを出しながら、時間がないときはつまみ食いで口に放り込みながら準備してあわてて出かけたり・・・。


この家の流儀じゃないのはわかってますから、そうしたいとは言ってませんけど希望としては家庭用のキッチンの前にこのテーブルがあれば十分なんです。」



「そうか・・・。僕も、あまりに朝からたくさんは入らないな。
仕事で遅くなって夜食をとっていたりすると、朝にホテル並みのゴージャスな朝食なんて無理だ。

うん。この隣の部屋を改造することにしよう。
火の管理はしないと怖いので、料理長に相談して智香の思うようなキッチンを設置して、ふだんの朝食や僕たちが勝手に作っていいような場所を用意しよう。

それでいいね。」



「えっ・・・でもそれじゃ料理長さんのお仕事が・・・」



「ああ、彼はここの火元管理をしてくれているけれど、仕事はうちの他に駅前のところにある無国籍料理の店の看板シェフでもあるから大丈夫だよ。」



「あのお店ってすごい人気店じゃないですか。たしかイタリア料理とかフランス料理とかの受賞シェフが多いってうわさの・・・。」