菜の花の君へ


智香子は心から岡田先生の優しさが温かいと思われると同時に、やはりもう和之がここからも存在が消えてしまったのだと思わざるを得ない状況に涙がこぼれた。


そして、涙が止まらなくなりそうで慌てて外へ飛び出してしまおうとすると、和音に腕を掴まれた。



「もう生徒じゃない。中務教諭の妻としてきちんと挨拶をして出なさい。」



「あっ・・・。」




智香子は和音に言われて、はっと我にかえった。

本来なら、和之が先生方にお祝いの言葉をもらいお礼を言うはずだった。

お礼を言えなくなった和之に代わって、きちんと挨拶しなければ。



智香子は涙で声をつまらせながら、お世話になったお礼と和之のことを忘れないでほしいと頭を下げた。



和音と車のところまで歩きながら、智香子は和音にお礼の言葉をつぶやいた。


「出ていくのを止めてくれてありがとうございました。
今、和之さんの姿はなくても、私は妻であることに違いなかったですね。

しっかりしなくちゃ。」



「無理はしなくていいです。
やるべき動作さえこなせば、それでいい。」