菜の花の君へ



言葉を失って、召使いに案内された部屋のベッドに智香子は倒れこんでいた。

和音に言われたことが耳元で響いている。



「どう思おうが・・・私は中務智香子。・・・中務智香子なんだ・・・。」



そのまま眠りにおちていき、智香子は夢をみた。



(智香。指輪は届いたな。・・・俺がドジってしまってごめんな。
それと、俺に家族がいて身近にいたことを伝えなくてごめん。

俺にとって家族はじいちゃんと智香子だった。
施設にいたときにすごく会いたかった両親は、思い描いたような親じゃなかったんだ。

家を守るってことが人を変えてしまうんだな。
和音に申し訳なく思っていたから、ときどきおまえに内緒で実家にきていたんだ。


和音は俺の分身。双子じゃないんだけどな、あははは。
頼れるやつだから、相談しながらがんばってくれ。

智香・・・がんばれ。愛してる・・・。)




「はっ!和之さん。」


「いい加減に起きろよ。家の中の説明をしてやろうと思てきてみれば、よだれたらして気持ちよさそうにいい気なもんだな。」



智香子は目をゴシゴシこすって目を見開いたところで、ベッドの前に和音がスーツ姿で立っている姿を見上げた。