ほんの一瞬の出来事。

タクシーの後方座席の左側。
すぐに料金を払って家まで走って帰るつもりだった。


左腰からどくどくと血が流れ、寒気が走る・・・。
交差点を直進したタクシーに信号無視で突っ込んできた乗用車。


駅がまだ近いところで和之が乗ったタクシーは40kmと出していなかった。
そこに左から猛スピードで車が突っ込み、横を見ていなかった和之は突っ込んできた車の金属板を腰から腹にかけて突き刺された形で意識がなくなった。




(智香・・・。)




智香子はマンションで和之の帰りを待っていたので、電話がかかるとすばやく受話器をとった。



「かずくん?・・・!?」



智香子は受話器を置いた途端、藁をもつかむ人間のように、隣に住んでいる50代の夫婦の家に転がり込んだ。



「和之さんが・・・・・あっ・・・ああ・・・あっ・・・ううううう。」



「智香子ちゃん!どうしたの?今日は記念日なんでしょう。
何があったの?ねぇ、しっかりして。」