それから1週間ほどが過ぎ、智香子は湯河直弥の連絡をうけて、老人ホームでのボランティア活動に参加した。
主に活動するのは大学の演劇部中心で結成された人形劇をするメンバーだった。
すると、メンバーのひとりが湯河に何か話にいって、湯河が智香子の方へとやってきた。
「メンバーが2名足りないんだそうだ。」
「えっ!まさか・・・」
「智香ちゃんは察しがいい。僕とやってくれるよね。
あ、素人だとか初心者~ってわざわざ言ってくれなくても、お互い様だから気にしなくていいからね。」
「へたですけど・・・承知の上なんですね。
わかりました。がんばります!」
智香子は湯河と不慣れながらも人形を動かし、台詞を短時間で覚えて、なんとか本番を乗り切ることができた。
終わったあとで、智香子は数人のおばあちゃんから女の子役がとてもかわいかったと感想をもらえたことに感動をおぼえたほどだった。
「おつかれ~。あれ?どうした・・・何かあったのかい?」
「はい。人形劇を見てたおばあちゃんによかったって言ってもらえて、うれしくて・・・。無我夢中で何がなんだかだったのに。」
「それがよかったんだよ。こっちは舞台裏がわかってるから、短時間で覚えてもう必死でもがいてるだけだけど、あっちで見ていれば荒っぽくてもがんばろうとしている姿は人形を通してわかってくれてる。
相手が人生を知り尽くしたお年寄りならなおさらのことなんじゃないかな。
あ~俺はどれだけやっても大根役者だから、ほめてもらえなかったなぁ。
あははははは。」
「あの湯河先輩って自分のことを僕って言ったり、俺って言ったりするんですね。」
「ああ~。いろいろ首をつっこんでると、一人称は変わること多いね。
まぁ気にしないでつきあってて。じゃ、片付いたら帰っていいから。
順次解散~」

