久しぶりに2人でマンション近くのスーパーで買い物をして2人分の夕飯を作る。

ついこの間までそれが当たり前かと思われたことだった。


手近な恋で欲求を満たそうとしているように見られるのが嫌さに家を出てみたものの智香子は自分で自分の首をしめているかのように感じられて仕方がなかった。


パジャマ姿で家族と話をしたり、食事をしたり、別々の何かをしていても声をかければ何らかの返答がある。そんなさりげない空間。


寮生活も返答がないわけではないけれど、みんなやることはほぼ同じで毎日が計画的すぎる毎日。

誰かが彼氏の自慢話をして、恋バナに花が咲くことはある。
そのたびに、自分がいかに恵まれていたのかを気づかされる。


智香子はそんなとき和音の顔を思い浮かべなかったことはなかった。


「ん?どうした・・・もしかして見とれてる?」



「そ、そんなことどうして!和音さんこそ、話があるって何ですか?」



「あ、近いうちに・・・フランスに行くことになる。」


「えっ・・・!出張ですか?」



「いや、勉強と商売のため・・・かな。2年は帰れないと思う。
戻ってくる頃には、君は大学卒業の頃かな・・・。」



「そ、そんな・・・長く?」


「長いというか短いのかもしれないけど・・・。
前の仕事からのつながりのある客で個展で僕の作品を見て、デザイナーとしての勉強を提供する代わりに僕のデザインしたものを商品化して支店として任せてもらえる話をもらったんだ。

黒田さんもすごく勧めてくれてね・・・ちょうど智香も在学中だしいい機会かなって。」



「そうなんだ。じゃあ行ってきてください。」


「えっ・・・それだけ?」


「和音さんだって私が寮生活をするといったら、そっけなく賛成してくれたじゃないですか。
決めちゃってるものを動かすなんてできないんでしょう?」



「それはそうだけど・・・。僕が君の寮生活を許可したのは、君が自分を見つめたいと言ったからで、本当はとても悲しかったよ。」


「えっ!?」


「それに、この1週間だって君は画廊の近くまで来たのに、黒田さんや和紗とは話をして、僕のところには来てくれなかった。

それから京田君といっしょに居たっていうじゃないか。
彼とどういう関係?恋人として付き合ってるの?

なのに、和紗と喫茶店やここで長々と話すの?」



「どうしてそんなことを知ってるんですか・・・?それにどうしてそんなこと言うんですか?」



「僕以外の男と多くの時間を過ごしてほしくない・・・。」


和音はそうつぶやくと智香子の唇にはげしくキスを仕掛けてきて、立っていた智香子は傍のソファに倒れこんでしまった。

そのまま和音も智香子の上に被さると再び首筋から耳にかけて息をかけて唇でなぞっている。


「や、いやっ・・・だめ。」


智香子は思わず顔をソファの方に伏せようとするが、力づくで和音に抱きしめられてしまった。